書籍のお仕事の際、編集のご担当者や印刷製本を管理する方から、束見本を作る前に「背幅を知りたい」とのお問い合わせをいただきます。嵩高の本文用紙が主流となり、256頁くらいでも用紙を変えるだけで2mmも束が変わる場合もあります。出来上がりの想定や用紙を選定する際などいろいろと役立ちますので、背幅の算出方法をご説明します。
用語の整理
背幅と同じことを指している用語として、「束幅」「束」も良く使われています。また、背幅を本文のみ or 本文+付物どちらとするか解釈が分かれることがあります。ここでは表紙も含めた書籍の厚さを「背幅」としておきます。よって、背幅の算出は「本文の厚さ+表紙などを含めた付物の厚さ」で計算します。因みに 「束」はもともと上製本での本文のみの厚さを指しているそうです。なお、文中で「束見本」が登場しますが、これは書籍の背幅や重量を確認するために作成する見本を指します。
本文の厚さの計算方法
まずは基本として、本文の厚さの計算式を確認します。
(頁数÷2)×紙厚(用紙1枚あたりの厚さ)=本文の厚さ
(頁数÷2)で本文の総用紙枚数を算出し、本文の総用紙枚数に本文用紙1枚あたりの厚さを掛けたものが本文の厚さになります。
用紙の厚さの確認方法
背幅を算出するのにまず重要なのは用紙の厚さの把握です。メーカーの見本帳にほぼ記載されていますのでご確認ください。もし、見本帳に記載されていない場合やお手元に見本帳が無い時には調べる方法が2つあります。
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Webサイトで調べる
例えば、「淡クリームキンマリ」+「紙厚」で検索すると、京橋紙業さんのWebサイトの情報がヒットします。使用する用紙サイズと連量(斤量)で紙厚を特定します。紙厚の単位はμmなので1,000で割ってmm単位に換算します(例:85μm⇒0.085mm)。
*参考:京橋紙業様 淡クリームキンマリ:https://kyobasi.co.jp/product/2011/06/post-74.html
*京橋紙業さんのサイトにはほとんどの本文用紙が掲載されていますので参考になります。また、製紙会社のサイトにも、紙厚が掲載されている場合があります。
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印刷会社や用紙店に聞いてみる
お取引している印刷会社の担当窓口や、用紙を販売されている卸売会社様に問い合わせるのも一手です。
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番外:マイクロメーターを用いて紙厚を実際に測る
「マイクロメーター」というμm単位で厚さが測定できる器械があります。これと用紙見本帳など実際の用紙を用意して測ってしまうという手段があります。印刷会社の営業はこのようにマイクロメーターで測定して計算しています。
実際に本文の厚さを計算してみる
例えば 四六判 256頁、用紙が「淡クリームキンマリ 四六判72.5kg」の場合で計算してみます。
1. (256÷2)で、本文の総用紙枚数は「128」枚
2. 本文用紙の厚さは0.085mm
3. 本文の総用紙枚数「128」に本文用紙の厚さ「0.085」を掛けたものが本文の厚さ「10.88mm」です
付物の厚さの計算方法
並製本の場合
本文の厚さに、見返、別丁扉、口絵、表紙の厚さを加算すれば書籍の束幅となります。
ここでは当社が付物用紙未定の段階で、束見本によく使う用紙で計算してみます。本文の手順どおり、まずは用紙銘柄を確認して紙厚を調べましょう。
・ 表紙:NTラシャ 四六/170kg (紙厚 290μm)
・ 見返・扉:NTラシャ 四六/100kg (紙厚 170μm)
・ 口絵:コート 四六/90kg (紙厚 81μm)
ここでは例として、口絵8頁、つまり÷2をして4枚計算してみます。付物の枚数は事前に確認しておきます。
・ 表紙:表裏で2枚×0.29mm= 0.58mm
・ 見返:前後で4枚×0.17mm= 0.68mm
・ 扉:1枚= 0.17mm
・ 口絵:4枚×0.081mm= 0.324mm
よって、付物の厚さを合計すると、 1.754mmになります。
最後に、算出していた本文の厚さ10.88mmに合計すると、背幅は 12.634mmとなります。
上製本の場合
こちらも当社が束見本を作成する場合の用紙で確認していきます。見返、別丁扉、口絵は並製本と同じ計算方法になります。
上製本のポイントは表紙に使われる芯ボールの厚さと表紙貼り紙(あるいはクロス)を加算することです。まずはここで芯として多用されるチップボールの厚さについて整理して、計算方法を確認します。
チップボールと厚さ
四六判 上製本であれば 26号、28号が多く使われています。
板紙の場合は 米坪数が大きい数字になってしまうので、50g/m2を1号とする単位が主流となっています。 26号= 26×50= 1,300g/m2。 紙厚も厚いのでmm単位の表記が主流です。
チップボールの場合 26号で1.92mm 28号で 2.07mmとなります。
表紙貼紙
芯ボールを包むようにして貼られる表紙の紙です。厚みとして1枚分だけでなく、折り返して芯ボールを回り込むようにして裏側にも貼られるため、2枚分を換算する点に注意してください。
表紙を含めた背幅の計算
表紙の芯ボールを26号、ほか付物は並製と同様の場合で計算してみます。
・表紙:芯をチップボール26号、表紙貼紙をNTラシャ四六/100kgとした場合
まず、表紙のみで計算すると1.92mm+0.17mm×2(折返しで裏側に回った分2枚として計算)= 2.26mm
裏表紙分も算出する必要があるため、2.26mm×2= 4.52mm
・見返:前後4枚×0.17mm= 0.68mm
・扉:1枚=0.17mm
・口絵:4枚×0.081mm= 0.324mm
よって、付物の厚さを合計すると、 5.694mm になります。
最後に、本文の厚さで算出した10.88mmを合計すると背幅は 16.574mmとなります。
※角背の場合はこの数字がそのまま「背幅」となりますが、丸背の場合は曲面になっている分若干長くなります。丸背で表紙などデータを作る際には注意しましょう。
用紙の厚さ以外にも背幅に影響するものがある
用紙厚によって算出した背幅はあくまで目安です。実際に製本加工をした際には、用紙の厚さ以外にも背幅に影響する要因がいくつかあります。
・綴じ方法の一つであるアジロ綴じでは頁数が多くなってくると背幅が用紙厚に対してわずかに増える傾向にあります。理由は本文の折り目が背側にあり、これが重なって綴じられているためです。
・並製本は耐久性を向上させるために、表紙と見返(見返が無い場合は本文の最初と最後の1頁)のノド側を数μm厚の糊で接着します。そのため、背側がわずかですが厚くなる傾向になります。
・紙によっては重圧によってこれもわずかですが薄くなるものもあります。
よって、用紙厚によって算出した背幅もμm単位で正確にはなりません。背幅を装丁に活かす必要がある場合は束見本つくることをお薦めします。
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